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【美食探訪】ル・ブルギニオン(東京・六本木)

通い出した頃は、庭の木々やハーブもまだ植えられたばかり。土の色が目立ち、がらんとしてさみしく見えたものでした。それがどうでしょう。今は庭に面した一面のガラス扉の向こうには青々と緑が繁り、訪れる客を和ませてくれるように。キッチンからダイニングの窓越しに、食事を楽しむ客の姿と庭の緑の成長を見つめながら16年。ル・ブルギニオンの菊地シェフは、今日も笑顔で料理を作り続けています。

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2000年にオープンした頃は駅からずいぶん遠く感じた「ル・ブルギニオン」。六本木ヒルズができてからは、その中を通ってテレビ朝日通りに出るとずいぶんアクセスがラクになった。門と庭があり美しく緑が繁る。こじんまりとしたダイニングだが立派なセラーを持つ本格的なレストラン。ここが菊地美升(きくち・よしなる)シェフの築いた小さな城だ。

キッチンとダイニングは壁で仕切られているが、その間にサービススタッフが立ち回るスペースがある。ダイニングにいる私たちからは、壁にもうけられた窓の酒瓶越しに、ちらっとシェフの姿が見える。シェフからも、サービススタッフからも私たちが見えている。キッチンとつながる小さなこの空間と庭を望む大きなガラス扉のおかげで、独立したダイニングの優雅さを感じながらも堅苦しさから解放され、訪れた客はホッとするのだ。


菊地シェフは大阪の料理専門学校を卒業後、25歳まで東京のフレンチで働き渡仏。ブルゴーニュ、モンペリエなどで3年ほど経験を積み、最後の1年はイタリアへ。フィレンツェでイタリアンを学んで帰国し、「アンフォール」のシェフを経て独立した。イタリアでの経験から、アンフォールではそれまで使っていたオイルをオリーブオイルに変えていったという。
今も前菜やリゾットのほか、ソテーなどの調理にもオリーブオイルは欠かせない。たとえば前菜の「米なすのタルティーヌ」は、オリーブオイルを使って焼いたクルトンやエピス風味のパン粉、たくさんの野菜をマリネしたり焼いたりしたものなどが組み合わさった一品。クミン風味の子羊のそぼろにそれぞれの風味と食感が重なり、ひと口ごとに違う楽しさを味わえる。

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スタッフの心からの笑顔が生む素晴らしい雰囲気

ル・ブルギニオンは、リーズナブルなお値段で素晴らしい料理とワイン、サービスのすべてが堪能できる都内でも数少ない店である。ことに柔らかくあたたかなサービスについては、ずっと不思議に思っていたことがあった。見慣れた顔がいつしか新顔に変わっても、彼らの雰囲気はいつも似ている。何か特別に指導していることがあるのでは?と尋ねてみたら、答えはこうだった。


「うーん、強いて言えばいつも笑顔で、ということでしょうか。笑顔でいることはとっても大事だと思うんです。
あと、これは僕が心がけていることですが、彼らとの関係を良好に保つようにしています。一緒にまかないを食べながら話す。休みをきちんと取らせる。大切なスタッフに、気持ちよく働いてもらいたいんです。もちろん怒ることもあります。でも必ず、営業前にはリセットする。キッチンもサービスも同じです。嫌な空気はお客さんに伝わりますからね。
そしてなんといってもお客さんのこと、料理のこと、ワインのこと、すべてについては僕が一番よく知っている。だからできるだけ彼らに、その情報を伝えるようにしていますね。」


誇りと自信が生む余裕、あたたかなまなざし。スタッフにばかり色々強要するのではなく、自らが努力する。そんなシェフを敬い店を愛するスタッフの自然な笑顔が、彼らの雰囲気を長年同じくし、心地よい空気をつくりだしていたのか。ようやく腑に落ちた。

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重くなく美しく、しっかりと力強いフレンチ

この夏、函館を訪ねた。出会う人、出会う人・・・土地の方の人のよさに感心し、美しい自然と豊かな海の幸にすっかり惚れて、帰ってきた。菊地シェフが北海道出身だとは知っていたけれど、中でも函館出身だと気づいたのはその後で、なるほど!と膝を打った。菊地シェフ得意の内臓料理やジビエが大好きな私だが、「海のタルタル」など印象に残る皿に魚介を使ったものが少なくない。どれも力強さを感じる料理だ。函館が彼のルーツであれば、その人となりや料理についても納得がいく。


毎夏、2週間ほど店を閉めスタッフには夏休みをとってもらう。その間、菊地シェフはというとフランスに渡り、大好きなワインの産地を巡り、懇意にしているシェフたちと交流する。だがそれだけではない。まずこれという店の厨房に入り下働きをするのである。初心に返り、学びを得るために研修を受ける。人気店のベテランシェフがである。その知らせを客にはがきで送る丁寧さにも舌を巻く。知る限り、毎年こんな殊勝なことを続けている料理人は他にいない。


菊地シェフは、いつもこの笑顔で客を送り出す。まさに一生もののレストラン。この取材でまた、ブルギニオン愛が強まってしまった私である。

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編集後記~シェフのオリーブオイルライフ

店で使っているイタリア産のオリーブオイルは、デパートなどでもよく見かける高級オイル。今は2種ほどを使い分けており、フランス産も試してみたけれどコストがかかりすぎるのが難点だそうです。

取材でお伺いするレストランには、いつもレシピ用のお料理を2品お願いしています。今回はアミューズとメインのジビエ以外、すべてオリーブオイルを使った料理を選んでうまくコース仕立てにしていただきました。しかも、2品だけでよかったのにオリーブオイルを使ったメニューは、すべてレシピを丁寧な図入り、手書きで、料理ごとに渡して下さったことには本当に驚きました。

それぞれの料理の担当スタッフに、レシピ起こしを任せたとのことでしたが、お忙しい中みなさんで手分けしてご協力いただいたことに感動し、胸がいっぱいになりました。取材者の役得で、この紙のレシピは私の宝物に!難しそうな料理もありますが、記事でご紹介できなかったものは再現にチャレンジし、またみなさんにご紹介できればいいなぁと思います。

 

【ル・ブルギニオン(東京・六本木)】
住所 ▶ 東京都港区西麻布3-3-1
電話 ▶ 03-5772-6244
営業時間 ▶ 11:30~13:00(L.O)、18:00~21:00(L.O)
定休日  ▶ 無休(六本木ヒルズに準ずる第2火曜、毎水曜
HP  ▶ http://le-bourguignon.jp/

 

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